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「弓張山地」とは愛知県と静岡県の県境に弓状に連なり、標高706メートルの鳶ノ巣山を北東端の最高地点として、南西に太平洋沿岸付近まで約50キロに亘って延びる山域である。愛知県豊橋市・新城市と静岡県湖西市・浜松市浜名区にまたがっている。弓張山地で土の露出した崖から、下から上へと土を3段採取し、その採取順に綿布に塗りつけたドローイングが今回の「弓張山麓地質調査」である。弓張山地を選んだ理由は特にはない。強いて言えば毎日見ている馴染みの山地であり、「弓張」の名に惹かれたということにつきる。どこへ行っても土はあると思われそうだが、手つかずの土が露出していることはあまりない。その上、水の豊かな日本では、すぐに腐葉土や草に被われ、山へ入ったら、ほとんど土は見えない。土が露出するのは、土木工事や耕作などで自然が壊されたか、自然災害、つまり土砂崩れなどでの土の露出、その二つが殆どである。

弓張山地にいい色の土があるかどうかもわからない。だいいち、土に良い悪いなどない。これまで採取した土の色の変化は少ない。色の変化が少ないだけ、ドローイングであることに視点が集中される。色の変化はあればそれもいい、また、無くともそれもいい。絵画としての色彩は、ドローイングの結果生まれるものである。タイトル「弓張・邂逅と聯想」の「邂逅」は「たまたまの巡り合い」を意味する言葉。土は採取地が違えば必ず粒状性も色も違う。結果、ドローイングした表情もその都度違う。結果はいつも新鮮である。土に出会うことは、まさに偶然の巡り会い「邂逅」なのである。