ステートメント
私が制作する「時間を内包する絵画」は、あらゆるものは常に変化するという考えに基づいてる。具体的には、錆びて変色する銀箔、酸化し黄変するオイル、褪色する写真の感光剤など、環境の影響を受けやすい素材を用いる。光や空気、温湿度などに応じて、数年、あるいは数十年をかけ作品の見た目は変化していく。
近年の制作では、歴史上の絵画や版画、書物、地図などを作品のモチーフとしてきた。これらの図像や記録を作品に取り込むことで、過去の痕跡に触れることができるのではないかと考えた。
本展の作品《RACVYOXO》は、長崎県南島原での滞在制作をきっかけに、17 世紀の辞書に着目し制作した。南島原はおよそ430 年前に日本で初めて西洋式活版印刷機が持ち込まれ、書物が刊行された土地だ。本作ではその系譜を汲む2冊、『落葉集』と『日葡辞書』 をモチーフとして取り上げた。
辞書は言葉の意味や用法を体系的に記したものだ。その記述は、それらの辞書を編んだ人々が、個々の言葉にどのようなイメージを託していたのかを知る手がかりともなる。過去の辞書を参照することで、当時の人々が見ていた景色の一端に触れることができるのではないか、と考えた。
制作にあたり、『落葉集』と『日葡辞書』からいくつか言葉を拾い集め、その上に自身が南島原で撮影した写真を重ねた。「nami」の語の上には波の写真を、「山」の上には山の写真を、というように、過去の言葉の記録に、自身が見た風景の記憶を映しあわせた。
やがて作品は、銀箔が錆び、感光剤が褪色していく。アーギロタイプによるセピア調の色彩が薄れ、写像が遠のいていくと同時に、辞書から抜粋した文字群はやがて浮かび上がって見えてくる。異なる時間を宿した2つのイメージが交差し、作品は変化を続けていく。
どれほど鮮やかな記憶でも、時間による変質をまぬがれることはできない。いつかは忘れ去って
しまうかもしれない。しかし作品に蓄積していく変化の痕跡は、「かつてそこにあった時間」を確かに記録するだろう。作品を通して、過去と現在、そして未来をつなぐ時間を感じとる手がかりとなることを願っている。
須貝 旭 SUGAI Asahi
1990 兵庫県生まれ
2020 愛知県立芸術大学大学院 美術研究科 油画・版画領域 博士後期課程 修了
2017 タフツ大学美術館芸術学部 滞在留学
2016 愛知県立芸術大学大学院 美術研究科 油画・版画領域 博士前期課程 修了
2014 愛知県立芸術大学 美術学部 油画専攻 卒業
個展
2025 落葉抄, 愛知県立芸術大学サテライトギャラリーSA・KURA, 愛知
2024 類推の湖, RED AND BLUE GALLERY, 東京
2022 彗星考, L gallery, 愛知
2019 これから来る過去、通り過ぎた未来、おぼろげな今, Gallery Valeur, 愛知
主なグループ展
2025 星月夜, L gallery, 愛知
2023 Interface, HRDファインアート, 京都
2022 HOLBEIN ART FAIR, +ART Gallery, 東京
2021 Lights Gallery × REAL Style Exhibition, Lights Gallery, 愛知
2020 Framework, HRDファインアート, 京都
2017 美大生展, SEZON ART GALLERY, 東京
Kissing the Wall, タフツ大学美術館芸術学部, ボストン
Arts in Bunkacho トキメキが、爆発だ, 文化庁旧文部省庁舎, 東京
2016 物質としての絵画, 瞻百堂画廊, 東京
視界に満ちる海, 同時代ギャラリー, 京都
滞在制作
2025 南島原アートビレッジ・シラキノ, 長崎
受賞歴
2025 年度下期芸術文化助成, 野村財団
2023 キャリアアップ支援助成, クリエイティブ・リンク・ナゴヤ
2022 GOTO アート助成, 一般財団法人後藤欣之輔・美智子 世の中に貢献する人を育てる協会
2017 第34 回研究助成, 公益財団法人日東学術振興財団
2016 D アート賞, 公益財団法人堀科学芸術振興財団
2015 第30 回ホルベインスカラシップ, ホルベイン画材株式会社
成績優秀者・海外渡航費助成, 愛知県立芸術大学
学位論文
2020 銀箔の特性を応用した絵画 −「時間を可視化する」ための方法論−
博士( 美術), 愛知県立芸術大学
