この度、RED AND BLUE GALLERYでは初の個展となる三重県出身の画家カノシオニ「半身」を12月3日より開催致します。
是非ご高覧くださいますよう宜しくお願い申し上げます。
つぎはぎの身体—カノシオニ「半身」に寄せて
安井 海洋(美術批評)
カノシオニの描くものたちはどこか不完全である。欠けている、というのではない。足りないものどうしが補い合い、もつれ合っている。
描かれた人物は、顔の骨格や髪の長さから一見して女性と判断されるのだが、さらに観察するとそのうちいくつかは太い腕、厚い胸板、筋骨隆々たる背中など、男性的な部位を持っていることに気がつく。これらアンドロギュノス的な身体は、しかし、錬金術の書物に記されるような太陽と月を司る完全な存在からは程遠い。むしろ相対立する要素が衝突しながらも支え合い、かろうじて立っている、アンビバレントな身体である。
その彼/女の身体を、蛸、二枚貝、魚などのぬらりとした生き物たちが取り囲む。人に対して敵意や警戒心はなく、身に即した装飾品として振る舞っている。とりわけ蛸の柔軟な足は、からみつくというよりも腕から生え出た動脈のようにのたうつ。ここにもまた自己と他者のあいまいな境界が描かれる。生き物たちは彼/女の延長であり、彼/女もまた自らを生き物たちの住処として差し出す。
カノは自らの絵画が、理想の姿を求める人々を表したものだと語る。「服」を着替えるように肉体も思うがままに交換したい、そのような願望を描いているのだという。注意が必要なのは、カノは服という比喩を、容易に取替可能な消費の対象と捉えているわけではない点だ。服は皮膚にかぎりなく接近し、貼りついている。自分と無関係の服を選ぶことは困難であり、自己の実存に見合ったものだけを身にまとうことができる。一方で、服は自己そのものではなく、皮膚と服の間にはわずかな間隙がある。この間隙のために人間は世界に向かって自らをあるがままに表明することがかなわず、常に自分に合った服を探し続けるのである。
カノの制作は、ここでいう服の探求としてある。描かれる身体はいずれもつぎはぎで、あるべき姿を見つけられないでいることがわかる。現実の人間よりも長く伸びた胴や、誇張された筋肉からは、全体の均衡を犠牲にしてでも理想に近づこうとした痕跡が見出せる。一方で、画中の人物はその不安定なさまを押し隠すかのように屹立している。支持体に雲肌麻紙を選んだのも、紙にアクリル絵具を吸収させて画面上のマチエールのばらつきを消すことで、モチーフがひとまとまりの存在であることを示すためだと解釈できる。矛盾を抱えたまましたたかに生きる身体こそが、作家の求める姿なのであろう。
カノシオニ
1995年 三重県桑名市生まれ
2017年 名古屋芸術大学美術学科卒業
個展・グループ展
2018年 ART NAGOYA 2018 (愛知)
2020年 日韓交流展 (愛知)
2020年 個展「彼・彼女・彼」(アートスペース美園/三重)
2020年 アートセッション2020 (愛知)
2021年 Today展(韓国)
2021年 グループ展「ぐらぐら揺れる」(アートスペース美園/三重)
2021年 アートセッション2021 (愛知)