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数々の挑戦をしてきた芸術家、島州一が2018年にこの世を去ってはや3年が経とうとしています。島州一は版の概念を問い直す70年代の前衛的な作品から一貫して美術の概念を揺さぶり拡張してきました。そして作家が1994年に東京から長野へアトリエを移した後、目の前に拡がる浅間山をテーマに風景画を模索し続け、2007年から制作が始まったのが島州一のライフワークとも呼べる「Tracing -Shirt」シリーズでした。

シャツをモチーフにしたどこかポップアートの風合いを感じさせる水彩絵具で描かれたこの作品は、日々見上げている浅間山の化身として普段身につけている作家のシャツを克明にトレースすることからはじまりました。浅間山のアイコンとしてのシャツ、作家のアイコンとしてのシャツが同時に存在していること。浅間山という広大で深遠な自然空間と個人として生活している日々の時間や身体、これら相対するものを一つの画面に封じ込めるという手法を作家は発見したと言えるでしょう。そこから季節や時間による山の景色の移ろいをワードローブの中からその日の気分で選んだシャツに重ね合わせ投影することによって200点を優に超える多彩なシリーズ作品が生まれました。

「Tracing -Shirt」シリーズは単にシャツを描いた水彩画ではなく、一枚一枚自らの手によってトレース、敷き写された、この非凡な作家の出自である前衛的なモノタイプの版画作品と言えるでしょう。

2013年4月、弊ギャラリーは島州一の同シリーズを幕開けに開廊させて頂きました。その御恩を今一度胸に刻みつつ、微力ながら作家の足跡を辿る機会になることを願い追悼展を開催いたします。

また同時期開催として、島州一追悼展「言語の誕生」がコバヤシ画廊にて開催されます。

是非ともご高覧の程、よろしくお願い申し上げます。

 

山はいつもシャツを着替える。浅間山の象徴である私のシャツは、一瞬たりとも同じでない山の天気と同様、描くたびに異なった様相をして現れてきます。私の皮膚と浅間山の外観がピタリと重なり、私の存在そのもののアイコンとして成長し続けています。

島 州一(しま くにいち)

1935年(昭和10年)東京都麹町生まれ。多摩美術大学絵画科卒業。

1958〜64年、「集団・版」の結成に参加。

 1970年代からサンパウロビエンナーレ、シドニービエンナーレなどの国際展の日本代表。

 1980~81年、文化庁芸術家在外研修生として欧米に留学。

 1994年より浅間山連峰の裾野長野県東部町(現在の東御市)にアトリエを構え移住。以後油彩、水彩作品を中心に発表。

 2005年、「武蔵野美術大学研究紀要2004-35」に言語と絵画の構造を同一化させた自らの絵画論『言語の誕生』を寄稿。

 2007年、Tracing-Shirtシリーズ始まる。

 2011年、「原寸の美学」市立小諸高原美術館個展。

 2016年、「世界の変換と再構築」埼玉県立近代美術館個展。

 2018年、自らの闘病生活を記録したフェイスダイアリー「とんだ災難カフカの日々」を死の前日まで描き、急性骨髄性白血病の為死去、享年82歳。

 2019年、追悼 島州一版画展(須坂版画美術館、長野県須坂市)

 70年代はBゼミスクールで造形的表現行為のゼミを持ち、80年代は東京芸術大学で版画の非常勤講師を勤め、2000年代は武蔵野美術大学にて油絵の非常勤講師を勤めた。

 作品は国内外の多くの美術館に収蔵される。

T-Shirt211_web   Tracing–Shirt 211   Gouache on paper 80.3×120.5cm  2016

 

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