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natural garden   130.3×162 cm  キャンバスに油彩  2025年

 

12月20日(土)よりキンマキ「natural garden」を開催します。何度か訪れたアトリエで、話を聞きながら明確に絵画としてやってみたいことがあるんだなと思って嬉しくなったことを覚えています。観る人が作品をどんな線で繋ぐのか楽しみにしています。ぜひ、足をお運びください。(金森千紘/infans.)

 

message -yellow memo-  15.8×22.7 cm キャンバスに油彩  2022年

 

保たれるうちがわ

 

「夏休みの宿題はギリギリまで残しておくタイプ」
考えごとをしている時に、ふとこの言葉が頭をよぎった。けれど実際のところ本当にそうだっただろうか。時間を巻き戻すように記憶を辿ってみても、はっきりとは思い出せない。おそらく大きく間違ってはいないが、確信もない。

 

ドイツの思想家・ヴィクトーア・フォン・ヴァイツゼカーの言葉に「体験の秩序は、体験された対象の秩序ではない」というものがある。体験とは目の前の事物がそのまま内面に写し取られるものではなく、知覚や感情、時間の積み重なりの中で形づくられていくもので、構造物や事象には、物理的な背景だけではない、内的なものが存在していることを示している。

 

キンマキの近作において、メモはそうした内面性を静かに浮かび上がらせるモチーフとして現れていたのではないかと思う。母親からの伝言も、祖母の情報を忘れないための走り書きも、書いた人自身の気配や時間の痕跡を宿している。今回の新作では、「背景」と「文字」を分けて描く試みがなされ、メモ用紙という枠組みが取り払われた。分割されることで、文字は役割を担わない存在として画面に留まっているように見える。

 

言葉や作品、空間には、それぞれ「体験された対象の秩序」があり、鑑賞者はそれを自身の経験のなかで受け取り、重ね合わせ、往来させていく。

 

「夏休みの宿題はギリギリまで残しておくタイプ」という言葉に、時間や記憶、後付けの理解までもが含まれているように、絵画が体験されるのは、立ち上がった画面からの尽きない応答のなかにおいてなのかもしれない。

2025.12.19

金森千紘(infans.)

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