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この度、RED AND BLUE GALLERYでは都内で初めての個展となる須貝旭「類推の湖」を開催します。

須貝旭は作品の経年変化により時間を表現することをテーマに絵画を制作して来ました。銀箔や感光剤といった、経年による見た目の変化を起こしやすい素材を用い、それら物質の変化によって作品上に描いたイメージをも変化させていくことで、絵画自体の時間の経過を表現することを試みています。
従来、絵画の保存修復では画家が描き上げた時点を作品の完成とみなし、その状態を恒久的に維持することが理念とされてきました。しかし須貝はその理念を相対化し、作品のゆるやかな変化を通して完成とは何かを問い直そうとしています。つまり須貝の作品は、10~100年単位で図像を変容させる「時間を内包した絵画」だと言えます。

もともと大学で保存修復理論を学んだ作家は、絵画の物質としての特性に向き合い、過去から未来へと続く作品の時間と現在の私たちが生きる時間とを接続する試みである修復という行為には、自身の制作にも通じるところがあると考えていました。

モチーフに関しても、天体の観察・観測にまつわるものや狩猟動物の静物画など、人類による時間の表象を選択して来ましたが、今回は16~17 世紀のアジア東南部の地図に存在していたと言われる「想像上の湖」から着想したシリーズ作品を発表します。

ぜひご高覧のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

lake analogue (fountain) #1  2023年    36.0×24.0cm アーギロタイプ、アクリルメディウム、オイル、銀箔、パネル

 

lake analogue (fountain) #2 2023年    36.0×24.0cm アーギロタイプ、アクリルメディウム、オイル、銀箔、パネル

 

西洋で作られた 16~17 世紀の地図には、ほぼ例外なくアジア東南部に大きな湖が描かれている。そこか らは四本の河が発し、インドシナ地方を南下して海に注ぐ。湖はChiamay(チアマイ)や Chijamai、ある いは Kia、Cunebete、Jamahey などの名前で記される。18 世紀中頃まで、湖はその呼称や形状、位置を様々 に変えながら、幾度となく地図上に現れた。ところが、後世の地図ではこの湖が姿を消す。現実には存在しない、想像上の湖だったのだ。わずか数世 紀のあいだだけ実在が信じられた、この架空の湖に興味を惹かれた。

科学的な測量が確立する以前の時代において、地図は多くの推測や仮説に基づき制作された。特に、自身 の生活圏を離れた異国や、未踏の地については、旅行者の曖昧な話や地理的な推測で地図の隙間が埋められ た。それならば、この架空の湖“チアマイ湖”は、知識の空白を埋める過程で創作されたのだろうか。しかし、東西の交流が増した当時においても訂正されることなく、アジアの地図におけるランドマークのように大き く描かれ続けたのはなぜだろうか。

湖の正体を調べるうちに、それが時間と空間を超えて様々なイメージの交錯するアイデアとして創出され た、と考えるようになった。人々にとってその湖は、大地を潤す主要な川の源泉であり、熱と乾きから無縁 のオアシスであり、生命を育む楽園であった。またあるときは、雨の恵みをもたらす竜王の住まいであり、 魔物の手を逃れる安息地であった。あるいは、ただの謬説、真偽不明の噂話、無知が生んだ虚構であった。そして、探検者によって幾度もその位置が修正され続ける“さまよえる湖”でもあった。

この架空の湖を、想像と現実の結節点として描きたいと考えた。銀箔の上に感光剤(アーギロタイプ)を用いて焼き付けたイメージは、時間とともに見た目を変えてい く。空気に触れて銀箔が錆びて黄変する一方、不安定に現像された写像は褪せて消えゆくかもしれない。画中の湖もまた、過去の人々の想像力と共に、様々なイメージを纏いながら、その場所をうつろい続ける。

 

■作家略歴

須貝 旭 SUGAI Asahi

1990年 兵庫県生まれ

2016年 愛知県立芸術大学大学院 美術研究科 博士前期課程 修了

2017年 タフツ大学美術館芸術学部 (ボストン) 滞在留学

2020年 愛知県立芸術大学大学院 美術研究科 博士後期課程 修了

個展

2022年 彗星考, L gallery, 愛知

2019年 これから来る過去、通り過ぎた未来、おぼろげな今, Gallery Valeur, 愛知

2017年  e.g.g.o 0059 須貝旭 展, 大雅堂, 京都

主なグループ展

2023年 Interface ,HRDファインアート, 京都

2021年 青の時間を纏う椅子・緑の光を纏う椅子, Light Gallery, 愛知

2020年 Framework, HRDファインアート,京都

2017年 美大生展, SEZON ART GALLERY, 東京

Kissing the Wall, タフツ大学美術館芸術学部, ボストン

The Drawn World, タフツ大学美術館芸術学部, ボストン

Arts in Bunkacho トキメキが、爆発だ, 文化庁旧文部省庁舎, 東京

受賞等

2022年 GOTOアート助成, 一般財団法人 後藤欣之輔・美智子 世の中に貢献する人を育てる協会

2017年 第34回研究助成, 公益財団法人日東学術振興財団

2016年 平成28年度奨学生, 公益財団法人堀田育英財団

2016年 Dアート賞, 公益財団法人堀科学芸術振興財団

2015年 第30回ホルベインスカラシップ, ホルベイン画材株式会社

 

 

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