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 この度、RED AND BLUE GALLERYでは初の個展となる尾崎森平「1 9 4 2 0 1 9」を開催いたします。

 仙台市で制作を続ける尾崎森平(おざきしんぺい、1987年生まれ)は、生まれ育った現代の東北の景色、地方都市の見慣れた幹線道路沿いのコンビニ、スーパー、ガソリンスタンドやホテルなどの建物を題材とし、それらの風景と同一画面上に時空を超えた神話や寓話、歴史的事象などを引用したモチーフを描いてきました。作家はこれらを重ね合わせることで生まれる「共振」をテーマに絵画を制作していると言います。

 VOCA展2016で大原美術館賞を受賞した作品「Ceremony」は、誰もが目にしたことがありそうな郊外の空き地や田畑を通る道路沿いに唐突に現れるラブホテルらしき建物(廃墟?)と、1934年ニュルンベルクで開催されたナチ党帝国党大会で行われた上空を貫く数え切れないほどの対空サーチライトが夜空にそびえ立つ、あの有名な「光の大聖堂」が一体となった迫力のある大作でした。

ceremony_web    Ceremony    246×196cm Acrylic on canvas mounted on board 2015     大原美術館蔵

 今回の個展ではファシスト党ムッソリーニ政権下で進められ、イタリアの第二次世界大戦への参戦によって幻となった1942年ローマ万国博覧会の為に建設されたエウル(EUR,EsposizioneUniversaleRoma)地区にある当時の先端的なモダニズム建築物をモチーフとし、これらの建物を現在の日本の地方都市でよく見かけるホテルやコンビニ、日帰り温泉施設や斎場の建物などに置き換えたシリーズ作品を発表します。 その中核をなす「ホテル・エウル」という作品では、今もエウル地区に現存する有名な「イタリア文明館Palazzo della Civiltà Italiana」(現在はFENDIの本社ビル)が、「ホテル・エウル」という名の田園の中にひっそり佇むホテルの廃墟として描かれています。国民の意識を統一し国家権力を誇示するためのファシズム建築と言われている当時のモダニズム建築物を、時空を超えて現在の東北地方の景色に溶け込ますことで作家は「共振」を生み出そうとしているのでしょう。

 尾崎森平の言う「共振」とは何を意味するものなのか。それは衰退の一途を辿る日本の地方の物悲しさの中、無機質なコンクリートと田畑や森が交わり融け合い風景となっていくことの不可思議さを描くことで、皆が薄々感じている直視に耐えられない日本の社会的課題を露わにし、それが過去の物語や歴史的事象と容易く結びついてしまうという驚きと発見、ユーモアと恐怖が渾然一体となったこの作家にしか生み出すことのできない「絵画体験」のことではないでしょうか。今回の展覧会タイトル「1 9 4 2 0 1 9」とはつまり、過去のイタリアのファシズム社会と現在の日本の社会が地続きであることを指し示しているのです。

 尾崎森平の東京での初めての個展となります。今回の「1 9 4 2 0 1 9」と銘打ったシリーズ作品群で、この作家の独特の世界を存分にご鑑賞いただけると思います。ぜひこの機会にご高覧のほど宜しくお願い申し上げます。

※初日10月25日(金)17時から作家を囲んでオープニングレセプションを行います。

Family Mart  69×91cm  Acrylic on canvas

Family Mart     69×91cm      Acrylic on canvas mounted on board 2019

 

尾崎 森平 Ozaki Shinpey

1987  宮城県仙台市生まれ

2006  岩手大学入学

2009  企画展「UNBALANSE BASE-東北とアイデンティティ-」企画(旧石井県令邸・岩手)

2010  岩手大学 卒業

2012  「Paintings 2012 – 本田 健、小野嵜 拓哉、濱 千尋、尾崎 森平 -」(SARP・宮城)

2013  「GEISAI#18 」出展(東京都立産業貿易センター・東京) 「Paintings 2013 – 本田 健、小野嵜 拓哉、濱 千尋、尾崎 森平 -」(SARP・宮城) 「EMERGING DIRECTORS’ ART FAIR ULTRA006 Nov.side No.16 河田 麻美」(スパイラルガーデン・東京)

2014  「アートフェスタいわて2013 – 岩手芸術祭受賞作品・推薦作家展+岩手県美術選奨受賞者作品展-」(岩手県立美術館・岩手) 「シグセレクト(Cyg SELECT)」(Cyg art gallery・岩手) 「Autumn Group Show」(深川番所ギャラリー・東京)

2015  「1462 days – アートするジャーナリズム」(河北ビル5F-9F・東京) 「Young Art Taipei 2015」(シェラトンホテル9階・台北)

2016  「VOCA 2016 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」(上野の森美術館・東京) 個展「DRY EYE」(ターンアラウンド・宮城) 「2016年のIMAー岩手の現代美術家たちー」(岩手県立美術館・岩手)

2018  「アートフェスタいわて2017- 岩手芸術祭受賞作品・推薦作家展+岩手県美術選奨受賞者作品展-」 (岩手県立美術館・岩手) 個展「Lonely Planet」(MORIOKA第一画廊 + Cyg art galley ・岩手)

【受賞歴】

2013 「第66回岩手芸術祭美術展」現代美術部門芸術祭賞

2016 「VOCA 2016 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」大原美術館賞 平成27年度岩手県美術選奨

【パブリックコレクション】 大原美術館

CONCEPT】

 私は環境心理学に触発され、 自分の生まれ育った現代の東北の景色や生活の記憶、 ステレオタイプ化された地方や田舎のイメージを引き合いに作品を作っています。(以下これらをまとめて“風景”と呼びます) 私が作品のイメージソースに風景を多用するのは、 勿論それが私のアイデンティティの外枠(ケース)を形成しているからに他なりません。 私を取り巻き、イメージを刺激するこの風景は、国境や時空、次元を超えて、 神話や寓話、歴史的事象など、あらゆる物語や史話と呼応しています。 私は制作に於いてそれらの結びつきをリアリズムに反映する試みをしているつもりでしたが、 蓋を開けてみればその試みはシュルレアリスムの探求者と同じ試みであり、 また個人的な社会へのアイロニカルなジョークの発露でもありました。 個人史を突き詰め、作品を作り続けることでしか分からない事実がある。 だからアートは面白い。 私は今日も明日も頭の中に釣り糸を垂らして、 混沌とした風景の中から食いついてくるイメージを引き上げるべく、 せっせと手を動かし、じっくり物思いに耽ります。

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